酸蝕症・酸蝕歯更新日:2018年11月4日
[酸蝕歯(酸蝕症)とは] 酸蝕症は、歯の硬組織、特にエナメル質が種々の要因によって侵蝕されることをさします。酸蝕症に罹患した歯を酸蝕歯と呼びます。酸の作用によって脱灰される現象ですが、細菌が関与していないためカリエス(虫歯・齲蝕)とは異なります。
[症状] 初期は無症状です。中等度では冷たい物がしみることがあります(知覚過敏)症状が進行するとや虫歯のような痛みを引き起こします。[原因] (1)産業性・職業上 メッキ工場など ワインテイスターなど(2)酸性度が強い飲食物 柑橘類 清涼飲料水やスポーツドリンク、ワイン、一部の果汁、 ハーブティー、酢など 酸性度が高いマウスピースウオッシュ(洗口剤)(3)疾患に伴う場合 逆流性食道炎(胃酸逆流性) 摂食障害(嘔吐を伴う過食症)(4)薬剤 ビタミン剤やアスピリンなどの酸性薬剤の長期服用[酸蝕症・酸蝕歯の罹患率] 酸蝕症・酸蝕歯(虫歯や歯ぎしりに伴う咬耗を除いた歯の凹み)が1本以上ある人の割合は、年齢%と言われています。 5歳 : 5% 10歳 : 10% 20歳 : 20% 30歳 : 30% 40歳 : 40% 50歳 : 50% 60歳 : 60% 70歳 : 70%[酸蝕症・酸蝕歯のリスクファクター] 柑橘類(1日2個以上) 2倍〜37倍 嘔吐(週に1回以上) 31倍 胃症状(週に1回以上) 10倍 リンゴ酢(週に1本以上) 10倍 ドライマウス(口腔乾燥症) 5倍 炭酸飲料 2倍〜5倍 清涼飲料(週に4本以上) 4倍 スポーツ飲料(週に1本以上) 2倍〜4倍 フルーツジュース 1.5倍〜2倍[危険度は不明であるが要注意なもの] ・酒類全般(焼酎の水割り、お湯割りを除く) ・梅干し(食用・焼酎用) ・ビタミンCの粉末(アスコルビン酸) ・食酢(食用・健康嗜好) ・プール頻回利用
[治療] 酸蝕歯は、虫歯と比較してゆるやかに進行します。そんな酸蝕歯の問題は、修復材料である「コンポジットレジン」が接着しにくいことです。歯ぎしり、食いしばり、噛みしめを伴うことが多いので、ようやく接着した修復材料が破損しやすいことも問題です。インレーやクラウン(冠)で治療します。最終的な問題は、噛み合わせが悪化することです。[予防]
食料品用の重曹を少量溶かした水(アルカリ性)で含嗽することで口内を中和する方法があります。
炭酸の入ったようなソフトドリンクに低濃度の鉄分を補充すると、歯が溶けなくなるようだという研究があります。
[虫歯発生機序の基礎] 実験室での無菌動物には齲蝕(虫歯)が発生しないことから、齲蝕発生には口腔内細菌が必要なことが多いとされています。一方、「発酵性糖質」(口腔内細菌が利用し酸を産生可能な糖質)をほとんど摂取しないイヌイット(エスキモー)に齲蝕が少ないことから、発酵性糖質も齲蝕発生に必要だろうと考えられています。実は解っているのはそれだけで、ミュータンス菌だけで虫歯を語れるわけではありません。[酸産生細菌も酸には弱い] 低pH環境(酸性環境)は、細菌内部の酸性化も生じます。代謝酵素が阻害されたり、細胞質が変性したりして、やがては酸性死に至ることもあります。酸産生細菌はこれに対抗するために、細菌内部からの酸排出を行ったり、細菌内部でアルカリ性物質を産生したりして、細菌内部の酸性化を防いでいます。しかし、これらの対抗策は、自分自身が産生する酸の量に対しての防衛策です。想定以上の低pH環境では、酸産生細菌でさえも生きられずに死滅します。重度の酸蝕歯(酸蝕症)の人の口腔内には、プラーク(歯垢)ひとつないピカピカの歯が並んでいます。但し、酸蝕によって歯の形態は脱灰変形していますが。[虫歯と酸蝕歯との関係] 従来の齲蝕(虫歯)の発生理論「酸脱灰説」だけでは、虫歯と酸蝕歯との関係を説明できません。酸蝕歯は酸に接触した面から歯質が溶解して行きます。一方、酸産生細菌が産生した酸が虫歯を作るはずなのに、エナメル質最表層は虫歯にならずに中間層から虫歯が始まります。何とも不思議な現象です。歯質内部は虫歯によって大きな空洞があるのに、エナメル質最表層だけが残っているので、患者さんが小さな虫歯だと勘違いする原因になる現象です。虫歯が歯槽骨の下まで進行していて抜歯の適応症なのに、エナメル質最表層だけで歯の形態を保っていることさえあります。[GERDに伴う酸蝕症・酸蝕歯] (口臭とドライマウスとGERD逆流性食道炎との関係)GERD逆流性食道炎発症者は、唾液分泌量が少ないことが報告されています。つまり、ドライマウス口腔乾燥症かその予備軍です。逆流性食道炎発症者は、酸味臭の口臭を呈することが少なくありません。しかし、酸味臭の口臭を呈する患者さんを専門医療機関(大学病院や総合病院)に紹介しても、異常無しと診断されることがほとんどです。酸味臭の口臭を呈する患者さんは虫歯が多い傾向にあり、酸蝕症、すなわち重度の逆流性食道炎ではないことは確かでしょう。酸味臭の口臭を呈する患者さんは虫歯が多く、虫歯が多い人はドライマウス口腔乾燥症かその予備軍が多く、軽度の逆流性食道炎か予備軍である可能性が高いと思います。GERD逆流性食道炎発症者は、唾液中の上皮成長因子(EGF)も低下していることも報告されています。つまり、咽頭や食道の粘膜の修復が遅い可能性があると考えられます。[参照]口腔診断学会・口腔内科学会2012論文抄録集
*虫歯 *TOP(横山歯科医院)